前回の自己紹介で弊社の関係各位や知り合い、更には初めての方からも手厳しいツッコミや生暖かい声援などのお声を頂きました。私の駄文を読んで頂いた方々には感謝に絶えません。ありがとうございます。今後共、(呆れずに)宜しくお願いたします。冷やかしも歓迎です。
さて、今回は培地のウンチクを語るための最も重要な点、そもそも細胞用培地とはなんなのかについて少し話したいと思います。かなりくどいかもしれませんが、お付き合いの程をお願いします。
培地とはなんぞや
培地とはなんぞやと書きましたが、培地は多様な機能を持っており、培地の全体像を定義するのはかなり難しいんです。今まで知り合った多くのユーザーさんが培地は栄養供給液や増殖因子の補給源というイメージをお持ちのようです。このイメージは確かに間違っていませんが、培地の持つ機能のほんの一部でしかありません。培地開発の際に配慮する培地の機能を簡単に列挙すると次のようになります。
1.栄養供給
培地の開発では、まずこれをベースラインに据えます。細胞種毎の栄養要求性を考えて決めていきます。と言っても培地成分には難溶性や脂溶性の成分も有り、これを粉末の状態で加えて溶解可能にすることも必要で、それなりにノウハウが有ります。
2.細胞機能の誘導/抑制
使用される細胞や目的によって、加える因子の組合せを考えます。例えば、表皮角化細胞はCa濃度によって分化が誘導されます。ただし、単純に塩化カルシウムや硝酸カルシウムで濃度を調節すれば良いわけではなく、他の成分でカルシウム塩になっているものもありますので、それらも考慮します。
3.成長因子供給
増殖因子のことかと聞かれることも有りますが、成長因子には増殖のみならず上記の機能誘導の機能も含まれており(ややこしい言い方でごめんなさい)、増殖因子より広義の概念と捉えています。また、成長因子は蛋白性の因子と定義されることが多いのですが(ウィキペディアにもそう書いてありましたね)、蛋白性以外の因子にも上記の機能を誘導するものがあり、必ずしも蛋白性の因子ばかりではないと考えます。
4.浸透圧調整
実はこれが培地屋の仕事のミソと言うか詰めです。培地の開発の最終段階で組成が決まってから最後に適切な浸透圧にNaClで落としこむのが常です。
5.粘性調整
細胞用培地はしゃぱしゃぱの液体しかないわけではありません。流動性を抑えてコロニー形成させるのに増粘多糖類を加えた半流動培地を使うことがあります。これなんかは蜂蜜のような状態ですね。半流動培地は造血幹細胞の分化誘導コロニーアッセイや細胞のクローニング等に使われています。ただし固形の培地は見たことがありません。
もっとも、昔、会社の先輩から微生物の様に培地を寒天で固めたらその上でHeLa細胞の培養が出来たと聞いたことが有りますが、私は確認したことがありません。先輩になんでそんなことをしたのかと聞いたら、面白そうだからとのこと。後輩の私も似たようなことをよくやっているので、同類(いや同病か)かも?
6.pH調整
pH調整は緩衝系の組合せで行っています。大雑把にはリン酸緩衝系、重炭酸イオン緩衝系、更にはHEPESなどのGood緩衝系が含まれます。その他のものも含めてBufferの組み合わせを細かく言えば色々あるのですが、長くなりますし、脱線し過ぎなので今回はパスします。
話が長くなってきたんで、今日はこのへんで一服。御用とお急ぎでない方は続きをちょいとお待ちください。
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