培地とはなんぞや の続きでございます
7.解毒作用
混入、生成される毒性物の除去や中和などです。特に酸化毒性の中和は様々な培養系で要求されており、各社で独自のノウハウなんかも有ります(うふふ、ないしょ~、て、男がやっても気持ち悪いだけですね)
8.モニタリング
これはコンタミや増殖状態のモニタリングですね。pH指示薬のフェノールレッドが用いられています。それ以外は毒性などの問題で使われていません。何か他のものはないかpH指示薬を試したことが有りますがほとんどだめでした。
フェノールレッドを入れなければ培地の色は極薄い淡黄色で、これは成分の葉酸やリボフラビンの色が出ているからです。他に色の出る成分としては赤いシアノコバラミン(ビタミンB12)がありますが、添加量が少ないので、ほとんど色調に影響しません。ちなみに、目薬の色も同様で、赤ければシアノコバラミンが、黄色ければリボフラビンが多いようです。
9.細胞の浮遊化/接着
浮遊化には界面活性剤などの分散剤を、細胞接着には血清や細胞外マトリックス(Extra Cellular
Matrix、ECM)などを用います。ECMは培地に添加せず、培養器質に直接塗布されている場合も多いので、完全な培地成分とは言いがたいのですが。
10.物質取り込み補助
培地成分では培養細胞が元々住んでいた環境に存在する同じ成分と比較して、濃度が高いことがしばしばあります。これは、その成分の取込み効率が培養環境では生体内より悪いためと考えられます。
細胞内への物質の取込みは様々な方法があります。低分子はイオンチャンネルやピノサイトーシスなどで取り込まれますが、これだけでは必要量が足りない場合があり、そのために担体に結合させて、受容体依存性エンドサイトーシスなどで効率的に取り込ませること行ったりします。鉄輸送担体としてトランスフェリンを使うのが代表的な例です。
11.その他
その他にも多くの機能があります。例えば、抗菌作用としての抗生物質などが挙げられます。ちなみに、コンタミ防止に抗生物質を培地に添加して欲しいという要望がありますが、私的には反対意見で、理由として抗生物質は半減期が短いものも多く(要は培地の保ちが悪いです)、また、殺菌的より静菌的に働き、菌が生きたまま残留することがあります。そのため、抗生物質を入れるとどの段階でコンタミしたか判らなくなるんです。凍結保存のストックを1本ずつ解凍-再培養して、どの段階からコンタミしたのかチェックするのなんざ時間も手間も掛かります。抗生物質が入っていなければコンタミはすぐに判りますし、どの段階でコンタミさせたか判りやすいってもんです。コンタミ防止は原因究明と対策が第一かと思います。
以上が培地の機能の簡単な解説です。さわりだけではなくもっと詳しく書けと言われるとえらいことになります。論文の総説どころか、成書が何冊もできてしまいます。本ブログではそのような総説や成書ではなかなか触れない部分、ウンチクや失敗談について中心に連載しようと思っていますので今回は割愛します。
培地とは「環境」である
このような多機能な培地についてですが、単純な説明を求められた場合には、培地は衣食住を備えた「環境」であると説明しています。更に培地の開発は「家」の設計に似たところがあると思っています。そこに住む人(細胞)が快適に住めるようにするためには、何が必要なのか、どんなものを用意すれば効率良く働いてくれるのか。培地屋さんはそんなことを考えながら培地を開発しています。つまり培地屋さんはデザイナーなんです(なんかカッコええなあ。もう「オタク」って呼ばないで)。
さて、今回はしょうもない自画自賛で〆ましたが、次回からは失敗も含めた裏話なんぞを少し話してみたいと思います。乞うご期待。
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