細胞培養 特別講義 第6回は、前回から引き続きご講義いただいております順天堂大学奥村先生です。“NK細胞の発見”後編は、NK細胞の役割をIn Vivoで実証するまでのエピソードをご紹介いただいております。どうぞお楽しみください。
<前編はこちら>
■講師紹介ページ:順天堂大学 奥村 康先生
奥村 康 先生
順天堂大学医学部免疫学 特任教授
仙道先生らは、免疫もしないマウスの癌細胞を殺す機能をNatural Killing, その役目を授かる細胞想定してNatural Killer (NK) 細胞と漠然と呼ぶようになりましたが、私は依然として、これは何か実験条件の人工的な産物で、免疫学で扱う必要のないものだと思い続けていました。
その頃、リンパ球といえば胸腺でできてリンパ節や脾臓に出てくるT細胞と、免疫グロブリンを細胞の表面にセプターとしてもち、抗原刺激を受ける免疫グロブリンを産生して分泌するB細胞との2種類しか考えられませんでした。何も処理しない動物のリンパ球が癌細胞なら殺す、といったある意味で都合のよい働きが、この2種類の細胞群にあるなどとは、当時想像もつかなかったのです。ところが、時を同じくして、ヨーロッパの研究者達も全く同じ現象を発見したという報告がありました。その後は相次いで各所でリンパ球のNK作用が確認されるに至りました。しかし、NK細胞は果たしてTかBか、はたまた全く違う第三のリンパ球群かといった議論がその後続いていました。
その頃、ヌードマウスという先天的に胸腺と体の毛がない(ヌード)動物が、免疫も何もしないのにいやにNK活性が高いということが、大きな話題となりました。このマウスは胸腺が生れながらにありませんからT細胞は出来ようがなく、従ってB細胞だけだと考えられていたのです。実はこのマウスのリンパ球の中には、TでもBでもない細胞が沢山存在することが次第に解ってきました。そして皮肉にも、そのNK細胞の発見から5年くらいしてから、私達はTでもBでもないこのNK細胞群とだけ反応しそれを見分けることの出来る抗体の作製に成功し、NK細胞をリンパ球のなかの独立した一群として認めさせるに至ったのです。
この生体の免疫系に備わったNaturalとも考えられる防御機構の提唱は、その後、多くの免疫学者を自然抵抗性(Natural Resistance)の研究分野へ引き付けることになりました。NK活性やNK細胞は、もちろんヒトやネコ、魚に至るまで、広く動物種を越えて存在することからも、逆にその重要性が浮き彫りにされています。ちなみにヒトから採血した抹消血中のリンパ球を分離しますと、約70~80%のT細胞、10~15%のB細胞、約10%前後のTでもBでもないNull細胞に分けられます。NK細胞はこのNull細胞群の中に含まれていることも今では判っています。
生体のなかで正常な細胞が突然変異を起こす確率、すなわち癌細胞になる数は専門家による計算に基づけば数千だそうです。ですからヒトは毎日数千の癌細胞を体のどこかで誕生させていることになります。この体中のあちこちで非行少年的に発生する癌細胞を毎日毎日丹念に潰していてくれるのが、このNK細胞の役割だということを、私達が試験管の中でなく生きた動物で実証することが出来たのは仙道先生に出会ってから5年後のことでした。
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