「初めに」
まず、このブログの口上の代わりに、自己紹介も含めていささかの与太話から初めさせてもらいます。お耳汚しの話やも知れませんが、お初ということでどうかご寛恕下さい。
さて、私は極東では「細胞関連分野の主席研究員」という役職に有ります。今まで細胞や培地以外には能が無いと言い切って会社人生を過ごしてきました。その我儘を認めてくれていた会社が太っ腹なのか、諦めていたのか判りませんがそのお陰で入社から28年間、それ以前まで含めると合計で30ウン年(歳がバレますね)、細胞や培地の開発だけに関わってこれました。ジョブローテーションなんぞという一般的な企業人の人生を無視した専門職気質の人生です。
そんな私なのですが、この業界の先輩方には「お前なぞまだひよっ子だよ」と言われています。 大先輩の中には還暦をとうの昔に過ぎながら、なお、毎日細胞の顔を見るのが生き甲斐とおっしゃる方も居りますんで、たしかに未だ半人前なんですよね。まだまだ精進が必要なようです。
実は私「オタク」なんです
私は社内では「極東の細胞オタク」ないしは単に「あのオタク」と呼ばれています。最初に言い出したのは以前の上司ですが、当人に自覚がなかったもので言われた当初はかなり面食らいました。「私は至って常識的な社会人である」と信じておりましたし、そのように抗議もしたのですが、周囲には相手にされません。理由はどう見ても真っ当な社会人には見えないからとのことです。
例えば、細胞に対する表現が擬人化されていて(なんでもかんでも擬人化は最近の流行りのようですね。戦艦とか)、「うちの子は」と説明を始めたり、顕微鏡を覗きながら細胞と会話しているとかなんとか、かんとか。言われてみて初めてそれがおかしいのかと気付く有り様でした。
ある時はイスラエルの細胞関連のビジネスマンと話していて、彼は「娘が飼っているゴールデンハムスターが可愛い」と仰ったので、私の育てているチャイニーズハムスターの娘の方がつやつや光っていてもっと可愛い、ぜひ見て欲しいと言って、私が樹立した亜株の浮遊性CHO(Chinese
Hamster Ovary)細胞を見せました(ほんとうに可愛いんですよ)。彼にはそれはハムスターではないとか、可愛いとはとっても思えないと言われて大層むくれたことも有りました。
そんなこんなで最近ではようやっと「オタク」であるのを自覚するようになりました。知り合いの医大の先生曰く、症状の自覚が治療の第一歩だそうです。まあ、当人が治療を望むか否かはさておいて。一応どこぞの某氏(危険を避けるため、特に名は秘す)よりは私の方がマシなんじゃないかと反論しては見ますが、普段の言動のせいか、何方も一向に賛同して下さいません。ほぼ自業自得ですね。
門前の小僧。習わぬ経を読む
最初に告白すると、入社してから上司や先輩から体系的に培地の作り方を教わったことは殆どないんです。入社当時は、職人気質の方が多く、見て覚えろとか、身体で覚えろみたいな状態で、GMPってなに?とか、SOP(標準作業手順書)なんて見たことも聞いたこともないとか、そんな雰囲気でした(現在はそんなことはありません。ヒイヒイ言いながらSOPなんかを書いています。)。そんな中で身に付けた技術が後の勉強で「なんだ、そうだったのかあ。」となって現在に至っています。理屈が後からついてきたようです。
それでも今まで何とかやってこれたのは、細胞そのものが好きになり、より良く培養することを楽しむようになったからなんでしょうね。孔子の『論語』に「子曰、知之者不如好之者、好之者不如樂之者。」という言葉があります。これは「孔子は言われた、これを知る者はこれを好む者に及ばない。これを好む者はこれを楽しむ者に及ばない」という意味だそうです。まったくモチベーションの維持は好きになること、更には楽しむことだと痛感する次第であります。
このブログではオタク人生30年で得たうんちくや失敗話を徒然書いていこうと思っています。御用とお急ぎでない方はお付き合いいただければ幸甚です。それと、我儘ついでですが、励ましのメールや質問、突っ込みなんかがありましたらcellculture@kyokutoseiyaku.co.jpに「あのオタク」宛でご連絡下さい。筆不精かつ怠惰な私のエネルギー兼ムチになるかと思います(社内にも執筆推進用ムチ係の方もおられますが)。よろしくお願いします。
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