細胞培養 特別講義 第1回の講師は、順天堂大学免疫学特任教授・名誉教授の奥村康先生です。
■講師紹介ページ:順天堂大学 奥村 康先生
先生は免疫学の国際的権威であり、今年で御年72をお迎えになりますが、お歳からは想像もできないほどパワフルに活動をされています。当ブログにも、先生のご経験から今回はRPMIのお話をご寄稿いただきました。先生の豊富な経験をもとにした様々なお話は、シリーズ展開をお願いしておりますので是非続編もお楽しみ下さい。
“Rosewell Park Memorial Institute (RPMI)
を訪れて“
順天堂大学 免疫学 特任教授 奥村 康先生
私が千葉大学に在籍していた1971年にワシントンで開かれた第一回国際免疫学会に出席した後、兄弟子の谷口克先生とRPMIを訪れる機会に恵まれました。第一回の国際免疫学会での一番のトピックスは私の師・多田富雄に加えGershon、Herzenberg先生三人による全く実験系は違うのですが、世界で初めてのサプレッサーT細胞の存在の発表でした。もちろん石坂公成先生のIgE発見の後ですからIgEのセッションも超満員だったのを覚えております。
多田先生は石坂先生のIgE発見の頃デンバーへ留学されており、石坂先生の免疫蛋白化学の薫陶を受けられた方です。私が大学院一年の夏に帰国され、直接指導を受けることになったのです。米国での経験から免疫の抗体蛋白化学の分野ではとても米国に追いつけないと考え、抗体を産生する細胞性機序すなわちリンパ球間の相互作用の研究テーマを私に与えられました。
その頃のトピックスはT細胞とB細胞は単細胞同士ですが相互に会話をし、B細胞の抗体産生を効率よくするには、T細胞の励ましやお助けが必要で、ヘルパーと呼ばれるT細胞の存在が発見された頃です。そのヘルパーT細胞の追試をIgEの抗体産生の動物モデルを開発して調べることが私のテーマでしたが、私が動物からT細胞を除いても、やり方が下手だったせいか抗体産生は却って上がり、予期した反対の現象が起きたのです。しかし、それがきっかけでサプレッサーT細胞の存在を世に先駆けて発表できたのです。冒頭の多田先生のワシントンでの国際学会での発表はその私の仕事でした。
学会での成功を皆様と喜び、その後あちこちの研究所を見学しました。米国の免疫学のメッカは、時代により変遷しています。今の若い研究者の方々にはあまり知られていないと思いますが、私の大学院生の頃のアメリカの免疫学の一つのメッカはバッファローにあるRosewell
Park Memorial Institute (RPMI)
でした。有名なPressman所長に加え、免疫化学の大御所・八木先生をはじめ沢山の日本の研究者が働いておられました。当時、米国で最も豊かな予算のある研究所のひとつで、あるビルへ入ってビックリしたのは、体育館のような建物の中に大きなパイプが沢山交叉し、パイプに連なってあちこちにステンレスの大きな釜の様なタンクがありました。細胞培養の巨大な工場です。試験管の培養しか知らない私達は腰を抜かす規模です。細胞培養のメッカRPMIで、その頃よりまだ今でも世界中で最も私達の分野で使われている有名な培地、RPMI培地はこの研究所で生れました。そして、その培地は縁の下の力持ちのように近代免疫学に多大な貢献をしています。今でもそれを凌駕することの出来ない奇跡の培地RPMIの開発には、当時の方々の大変な苦労があったことは間違いありません。
今や抗体医薬が次々に登場していますが、まさに40年前に私がRPMIで見たS.F.の世界のような、工場のような設備が現実に多くの企業で展開されています。
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